セレニカ~グラントリ (UCI/2.HC)

最難関となるクイーンステージはブロークンランド

自転車屋さんの愚痴

自転車屋さんの愚痴あるあるとして「通販で買った低品質な自転車を整備してくれという客がきた」「客に『そんなことでお金とるの!?』という態度をとられた」というのがあります。前者は派生型として「自転車屋に修理してもらおうと思って行ってみたら『うちはママチャリは扱わないので』と言われた」というものがありますが、これはなぜか自転車屋さん側からの「スポーツバイク専門店にママチャリを持ち込んだアホがいた」みたいな発言は聞かないので、さすがに商売として感じ悪いだろうという自覚があるのだと思います。

整備・修理お断り問題

自転車の輸入量が国内生産量を超えたのが平成12年(西暦2000年)、1台あたりの輸入金額も2004年ごろに底値の6,000円を記録しています。西友に黒い変速なしママチャリが6,980円の値札をつけられてずらっと並んでいたのもこのころでしたでしょうか。これが、中国の安い人件費が反映されて価格が下がったというだけだったらよかったのですが、激化する価格競争のため製品品質も下がってしまったわけです。それに加えて販路の変化もあり、自転車専門店ではなくホームセンターやスーパーの自転車売場、あるいは通販での購入が増え、組み立て品質も低下を避けられませんでした。

これにより自転車は長く使うものから1年で使い捨てられるものになった、ということであれば(自転車が売れなくなって困ったお店を除けば)めでたしめでたし、だったのですが、不幸は「安い自転車は修理費も安かろう」と考えて自転車店を訪れる客が少なからずいたことでした。激安自転車が安いのは、粗悪でクソ安い部品を人件費の安い中国で組み立てているからであって、まともな部品しか流通していない日本でまともな収入を得ている日本人を働かせればそれなりのお値段になってしまうのは当然なのですが、そのあたりの想像力が備わっている確率というのはやっぱり激安自転車を買っちゃう層においては他より低いわけです。また自転車は電気製品やら衣料品なんかと違って昔から「修理しながら使う」というものであったことも消費者の意識転換を妨げているのかもしれません。

そんなこんなで、激安自転車を修理してもらおうと専門店を訪れたお客さんに「買ったほうが安い」「うちが提供するサービスはそれなりの値段になる」というのを納得してもらうのに、自転車屋さんが気疲れ、というよりもはやうんざりしているという状況がこの20年続いているわけです。ちなみに激安自転車を販売しているホームセンターはそもそも修理ができる店だとお客さんに期待されていませんし、大型チェーン店であれば広い店舗面積と豊富な在庫と自社調達によってそこそこ安価な商品であってもガンガン回して稼げるようになっているので、「いまお使いのものよりはちょっと高くなっちゃいますけど…」といった買い替え提案ができますから、個人店ほどのストレスはないのではないかなーなどと想像しています。 で、この問題が20年も解決されないということは、実は愚痴のネタにはなっているけど病むほどではないのでさして深刻でないということなのか、それとも自転車なんちゃら協会を含めた専門店界隈が全体として問題解決能力に欠けているのか、どちらかだと思うんですけど、いかがでしょう。うん、これはさすがに冷笑的にすぎました。長期間解決されない問題は単に難しいということなのでしょう。

問題の難しさはどこにあるのかというと、たぶん困っているのが零細業者で、個々に打てる対策が非常に限られているという点じゃないでしょうか。そもそも論でいけばやっぱり自転車産業振興協会なり自転車協会なりが、JIS規格の存在だとかその重要性、そしてそれを保証するためにどういった技術と人材が必要か、あるいは逆に激安自転車のトラブル事例などについて、メディアに声をかけて定期的に取り上げられてもらうようにするといったような活動が求められるのだと思います。こんな感じで。

www.j-cast.com

もしも既存団体が頼りにならないのであれば、労働問題でよく〇〇ユニオンなんてのが作られているのを参考にして、お互いに声をかけて寄り集まって発言力を高めていくしかないのかな、と。個々のSNSでの発言は、まあ自転車屋さんのアカウントをフォローしている人はだいたい自転車好きで事情もわかってますので、広報効果は期待できない気がします。

危険だからいじりたくない?

なおこの件に関しては「激安自転車を整備してもきちんと安全な自転車にできる気がしない、それで (A) 事故が起きて誰かが怪我したり、(B) クレームがもとで店がつぶれたりするのがいやだからいじらない」という意見もちょくちょく目にしますが、本気でおっしゃっているのだとすると、Aについては「あなたががんばってお客さんを説得して整備依頼をしてもらわないと事故の確率はもっと高くなりますよ」ですむ話ですので、実際に心配しているのはBだということになります。まあそういうことになる確率はゼロではなかろうとしか申し上げられないのですが、 www.google.com こちらのブログなどお読みいただけると、よっぽどひどい自転車店でもそう簡単につぶれないんだなあと安心していただけたり…しません?

こんな意見もあります。

街の自転車屋は、持ち込まれた自転車のチェックを行っています。でもそれはあくまでも「整備点検」。読んで字の通り「整備の点検」ではないのでしょうか? ですから「ゆるんでいないか」とか、「ちゃんと動くか」の点検です。すべらかに動かない部分、動きのおかしな部分をチェックして修正し、緩んでいるところや、伸びている部分をなおします。

でもこれって、構造的な欠陥を探しだすのが目的ではありません。

ブレーキがきくかどうか、ちゃんと変速するかどうか、そんな部分は確認します。でも、フレームが安全かどうかまではチェックできません。それって非破壊検査的な内容じゃありませんか? 数千円でそれを期待されているなら、持ち込まれた自転車のチェックは断るしかありません。 番組で紹介された「欠陥自転車を選ばないためのポイント」に疑問アリ! NHK『あさイチ』より|滋賀・彦根 自転車の楽しみと仲間がみつかる 趣味人専門自転車店「 侍サイクル 」

消費者の期待はともかく、裁判ともなれば合理的な判断(「街の自転車屋では自転車の構造的な欠陥を見抜くのは事実上不可能である」)が出るのではないでしょうか。ビアンキ訴訟もシマノスプロケット不良もメーカーを相手どっての訴訟でしたよね。じっさいに販売店が訴えられた事例をご存知でしたらぜひ情報提供いただきたいところです。

工賃無料でいいの問題

私の認識だと、自分のお店で買ってくれたお客さんについては軽微な整備は無料でやってあげるというサービスはわりかし一般的に行われています。そればかりか、修理を頼んだらぱぱっとやってくれて「こんなことだったら無料でいいよ」みたいな気前のいい自転車屋さんのエピソードだってそう珍しくはありません。それなのに、なぜ素人であるお客さんに有料と無料の線引ができると期待しちゃうのでしょう。お客さんに想像力を期待するのもいいですが、それでいちいち気を悪くするぐらいだったら想像力のないお客さんにきちんと説明すればいいのでは、とここまで書いたところでやっぱりこれも愚痴のネタではあるけど解決のための労力が大きいので差し引きではプラスということで放置されている問題なのかなあという気がしてきました。

結論

自転車屋さんの愚痴は愚痴なので真に受けていちいち突っかかったりしなくてもいい。 突き詰めればこれは「安全な自転車を提供することの価値」をいかにして知らしめるかという話なのでしょう。しかしそれを消費者に知ってもらうことは、上で書いたように団体としてのサポートがあったとしても、難しいように思えます。というのはたぶんいまでも「安全というのはタダで手に入るものである」と思っている人が大部分ではないかという気がするのです。激安自転車のトラブル事例紹介にしたって、他人事としてしか受け取られない可能性が高い。だいたい自動車からして一年間に交通事故で2,700人が殺されていて飲酒運転の事故が3,400件起きているのにみなさん毎日平気な顔で運転してますしついでに2万7千人が酒気帯び・飲酒運転で検挙されているわけです。激安自転車ヤバイと思ってもらうためには製品不良でいったい何人死んでもらわないといけないことか。

ここはむしろ、安全性という共感の得にくいポイントは捨てて、「マトモに作られていてきちんと整備された自転車で走るのはすごく気持ちがいいのだ」という体験をしてもらうことに注力するのも手かもしれません。 ただそうなってくるとこんどはインフラというまた別の大きな問題が立ちふさがってくるのですよね。

安いママチャリは、事実上「誰もがろくに自転車を整備せず、調整もせず、正しい乗り方もしない」ことを前提に製造、販売されている、と書いた。なぜそんなものが売られているのか、なぜそんな製品に多くの人が疑問にも思わずに乗っているのか。

本質的には、もっとも交通における強者である自動車になんらかの規制を加えると同時に、自動車、自転車、歩行者にそれぞれ専用のレーンを与えるような道路作りを進めるべきだった。

「自転車は歩道を走るもの」という意識は、いつしか「自転車はゆっくり走るものだ」という認識を形成していった。ゆっくり走るなら、フレームのたわみも、ブレーキ性能の低さも気にならない。耐久性のなさも「壊れたら新品に買い換えればいいや」ということで問題とはならない(おそらく低価格は、出来心からの自転車泥棒の敷居も下げたはずである)。消費者からは低価格というメリットだけが見える道理となる。

2008年6月の道路交通法改正以降、警察庁は、各地で自転車専用レーンを整備する試みを開始した。自転車と歩行者の間の事故が増加傾向にあるので、歩行者と自転車が歩道上で混合交通を、もう一度分離しようというのだ。 しかし、私の見るところ、2008年に入ってから設定された自転車専用レーンは、そのほとんどが幅が狭すぎたり障害物があったりと、自転車にとって走りにくい構造となっている。

日本でママチャリが発達した理由 | ワイアードビジョン アーカイブ より抜粋

どこまでを自分ごととしてとらえて働きかけをしていくのか、線引の難しい問題ではありますが、あらゆる自転車が使い捨てになる世界というのは自分的にはかなりイヤな世界なので、そうならないよういち消費者としてなにかしらお手伝いできるといいなあと思っております。はい。