セレニカ~グラントリ (UCI/2.HC)

最難関となるクイーンステージはブロークンランド

『疾風スプリンター』この暑苦しさを受け入れられるか

ちょっと前にやってた「The Program(疑惑のチャンピオン)」があんまりおもしろくなかったので今度こそおもしろい自転車映画が観られるといいなあ,と期待値高めで行ってみたんですが。ちょう暑苦しい2時間になりました。

本当にクオリティの高い自転車レースを、本当にクオリティの低い人間パートがダメにしていたのは残念。
(中略)
前半は極力ドラマ部分を削って自転車競技の面白さを存分に見せてくれるような展開だったから期待してたのに、中盤以降の目も当てられないような低レベルの人間ドラマがことごとく台無しにしていってました。

http://www.motomurahajime.com/entry/shippu-review

そう。とにかくドラマパートがすごいんです。たぶん90年ごろのTVドラマのセンス。香港だか台湾だかの映画はこんなのばっかりなのか,ほとんど観たことがないのでそのへんはわからないのですが,2016年でこれはグローバルな映画ではちょっとないよね…という。で,そういうのは自分としては受け入れられないと思っていたのですが,なんだかんだで突っ込みは入れつつも2時間しっかり楽しめてしまいました。なぜ拒否感が出なかったのか,ちょっと断言はしにくいのですが,たぶん

  1. 俳優さんたちがレベルの高い演技をしていた
  2. 日本人じゃなかった

というところが大きいんじゃないかと。

1についてはとにかく主役の3人がすごく一生懸命というか,プロスポーツ選手にしてはいささか幼稚とも思えるキャラクターをとてもうまく等身大に演じていて好感が持てました。ギリギリやりすぎてないというその塩梅が絶妙,というか。自転車に乗る姿勢も,自転車乗りからするとあーこれは自転車選手の動きじゃないねというのは一目瞭然なのですが,去年見た実写版弱虫ペダルに比べるとはるかに「乗り込んでる」感があって,これはそれなりに準備したんだろうな,と(そしてそれはエンディングのメイキング映像でも明らかになるわけですが)。

2については,たぶん日本人が日本語で演じていたらすっごくこっ恥ずかしい気分になったのではないかという気がします。身内がこんなひどいシナリオの映画に出て…! みたいな。でもコトバが違うとそういう気恥ずかしさはなくて,わりとニュートラルに受け止められました。

とにかくこっ恥ずかしいドラマなんですが,陳腐なだけに突飛な展開というのもなく,主人公たちの行動原理についても(展開的には「実はこういう事情があって…」という後出しになるのですが)最低限の説明はされていたので,「なんでそうなるの???」みたいな理不尽な怒りはまったく感じませんでした。でもやっぱり,うーん,万人受けはしないと思います。たぶんですけど,ふだんから香港映画をちょくちょく見てるか,そうでなくても実写版頭文字Dはすっげーよかった,みたいな人にはおすすめできるかも。

レースシーンはたしかに良くって,なにがいいかというと,すごい都心部のど真ん中とか海沿いの丘陵地帯を這うように登っていく道とか砂漠のど真ん中のぶっとい道路とかそういうすさまじいロケーションでレースをしているという絵面そのものが感動ものでした。ただ調べてないんですけどあれだけたくさんあるレースがぜんぶ実在のものってことはさすがにないですよね? というかあんだけレースがあったらもっとワールドツアーに台湾人がいっぱい参戦してないとおかしいですし。ちなみにレース展開そのものについてはちょっとリアルとは程遠いです(よね? というか本物のロードレースって絵的にはすごーく地味です。あとから選手の述懐とか聞くと,ええっ! 裏ではそんなことが!? ってなるんですけど。参考: エスケープ 2014年全日本選手権ロードレース)。それでもある程度気分が沸き立つのはなぜかなーと考えたら,とにかくレースのかっちょいい映像をバックに緊迫感のあるBGMと実況放送を重ねておくとそれなりに盛り上がれるんですね。べつに映画でなくてもいい。というかどのスポーツでもそういうかっこいいプロモーションビデオ的なものはあるはずです。自転車レースもだらだら実況するだけじゃなくて20分ぐらいで大興奮できるダイジェスト映像みたいなのも放送するといいんじゃないでしょうか。

やーでもほんとこういう熱い作品は必要ですよ。2年前にNHKでやってたドラマで,弱小サイクルロードレースチームに銀行マンが左遷されてみたいなのがありまして,とってもリアルというか自転車レースの世界って夢も希望もねえなあというお話だったので,あれを観て自転車レーサーになろうという人はたぶん一人もいなかったのではないかと思うのですが,この『疾風スプリンター』なら「うおー自転車レース出てみたい!」という気になる人がけっこういるんじゃないかしら? 無理?