セレニカ~グラントリ (UCI/2.HC)

最難関となるクイーンステージはブロークンランド

マブラヴオルタネイティブ(ネタバレあり)

未プレイの方はとっととお帰りくださいw


つらつらと抽出したテキストを読み進めているのですが。ずいぶんとテンポの遅いゲームだなあと思いながらプレイしていましたが,元の世界に転移できるようになるころまではわりといい感じで進んでいるのですよね。けれども,彩峰の手紙やら天元山のニュースやらをを見たあたりからタケルの自分語りが鬱陶しくなってきます。クーデターが発生して状況が大きく動き出すと少し気にならなくなるのですが,休憩時間に隊員ひとりひとりと話してまわるあたりからまたしても。まあこれは「立脚点」とやらを探すという物語上のひとつのヤマを演出するためにはしかたがないのですが,見つけたつもりになっていた「立脚点」(ちなみにこの単語は本編中で25回しか出てきません。もっと多いような気がしていたのだけれど)でさえ演習中のベータにこてんぱんにされてあっさり見失うあたりがやりきれません。さらにこのあと例のBETA襲撃から元の世界での悲劇に至ってどん底のさらに底まで突き落とされる。そういう展開じたいは大歓迎ですが,お願いだからその予感をもうちょっとにじませてほしかった(いや元の世界に悪影響を及ぼすという展開は予想していたのですがまさかこんなにクリティカルにえぐってくるとは)。こんだけさんざんっぱら内省しといて,一段上のステップに登れないばかりかこの扱い。やっぱり趣味が悪いとしか言いようがありません。

元の世界から戻ってくるときも,「……今のオレに……泣くことなんて……許されません」などと前向きになったような発言をするものの,じっさいのところ夕呼先生の敷いたレールの上を走らされているだけで,自分自身でなにかを決断したわけではありません。さらに戻ってからは夕呼先生の前で「オレはいつか、本当の意味で先生と対等になりたいんですよ」なんてかっこいいことを言い放つわけですが,結局最後まで対等とは思ってもらえません(拳銃の意味について。夕呼先生が「もしかしたら運命が自分を楽にしてくれるかも」的なことを考えていたというのはちょっとのんきすぎる感想というか。あれは牽制と,アンタはこういう茶番でいちいちくやしがったり強がったりしてくれるヒヨッコなのよ,的ななにかではないかと)。

A01に配属されてからも先任たちの人間の大きさばかりが目立って,さらには207の面々もタケルがいないあいだに成長していたりして,いまいちぱっとしない。甲21号作戦の単独陽動にしたって「俺もなんかやらなきゃ」程度の焦りにしか見えなかったり。伊隅大尉との最後の会話でタケルのほうから温泉話を持ち出して明るく別れてくれんかなーと期待したのですがそれもかなわず。このあともひたすら人の意見に感心してばっかりで,自分から仲間をうまく気遣うような発言や行動がろくにできていません。

それにひきかえ純夏の立派なこと立派なこと。告白して振られたときは思わず本気で信じてしまって「神展開キタコレ!」などと盛り上がってしまいました。というかそもそもこの作品のキャラクターはひとり残らず立派すぎです。弱さを見せたキャラクターを主人公が支えるとかそういう甘い夢をいっさい見させてくれません。唯一彩峰が見せたスキに対しては傷をえぐっただけでしたし。お手軽なカタルシスをここまで徹底して排除されるといっそすがすがしい気分にすらなってきます。

突然ですがちょっと惜しかった台詞。「……全ての世界の純夏は、全部オレのものだ――そう考える事にした」「目の前に純夏がいる限り……オレは全力で愛す。そう決めたんだ」

僕の脳内では「つってもまあ2人いっぺんに出てこられたらマジ困ると思うけど」と続けていたのに! 「あっちへ行けなんて言わないでくれ」ってなんだそのヘタレた発言! それにひきかえ純夏の「あはは……ふたりのタケルちゃんに愛されるなんて、わたし確率時空一の幸せ者だね!」という台詞は一,二を争う秀逸さではないかと。確率時空て。

閑話休題

えろげ界のえらい人(とそのおともだち)によるとあ号標的の前で早く撃てというのは外道だそうですが,じつは僕も早く撃ってほしかったw …と思っていたのですがよくよく考えてみると早い遅いの問題ではなかったような。もちろんリアリティ? なにそれ? なじっくりねっとり演出も問題というか,あんまり作品に不可欠とは思えなかったのでイラっとくることがあったのですが,この場面に限っていえば,「…ひょっとしてここで撃たないという展開もアリだったりするわけ?」という考えが頭をよぎるほどタケルの腰が引けていたのが気に入らなかったわけです。ひたすらに自分らしさを貫いてきた冥夜のすばらしさはわかる。優しさ・甘さとの戦いがテーマのひとつだから葛藤の深さもわかる。でもね,僕はここまで延々60時間もタケルの自分語りと愚痴と決意と逃げ口上を聞かされてきたんだから,そろそろそういうループから逃げ出せるという光明をもうちょっとわかりやすく見せてくれてもいいんじゃないかな?

しかし最後には,いままでの自分をかなぐりすてるような冥夜の慟哭に突き動かされるように,自分の手を汚すという選択をなしとげたタケル。すべてを失ってなお「……5分だけ……泣いていいか……?」と言えたそのとき,ようやくこの壮絶な世界に自分も属しているのだと彼が認めたような,そんな気がしました。

マブラヴから足掛け3週間,長きに渡るプレイを終えた僕はぐぐるさんに手伝ってもらってあちこにの感想をながめてみました。前出のペトロニウスさんは思わず揶揄したくなるくらいの勢いで分析しまくってて感心したし,はてなでいちばん気合が入っているであろうd:id:hasidreamさんとこもおもしろかった。逃げ出すことなく踏みとどまったことがえらいんだとか,これは「覚悟を試され続ける物語」なのだという言説はなかなかうまくこの作品を説明しているように思えます。ただ,タケルにどれだけの逃げ場が用意されていたのかというと…。なんだかんだで彼は終始「これしかない」という選択肢しか選んでいない,言い換えると流されるままに行動していただけではないかという疑念は消えません。等身大の主人公らしいといえばそうなんですけど,そういうのは等身大の世界でやってくれんかなあ,なんて。できれば僕はタケルがこの超絶スケールの世界において「最善の選択」をなしとげるところを目撃したかった。

ま,とはいっても,僕がわかりやすい話万歳なヒトだからこその減点であって,この作品がそんじょそこらでは見られないようなものすごいものを見せ付けてくれたのは確かです。こんなことなら新品で買ってあげてもよかったw 2006年には62,546本を売り上げたそうですが,この6万人の仲間入りができてほんとうによかったと思います。

アージュに,心よりの感謝を。

D