セレニカ~グラントリ (UCI/2.HC)

最難関となるクイーンステージはブロークンランド

マブラヴオルタネイティヴ(ネタバレなし)

自動文字送り機能はONにしっぱなしでプレイ期間10日。うち週末が2回。合計すると60時間前後でしょうか。Fate/Stay Nightのプレイ時間がちょうどそれくらいだったような覚えがあります。地球外生物の侵略,平行世界,ミリタリー,とストライクゾーンど真ん中だったのもあって,満足度は非常に高いです。こんなものを世に送り出してしまったアージュという会社には畏敬の念を覚えざるを得ません。60時間をひねり出せるのであればぜひプレイしていただきたい。それでもやっぱり100点満点というわけにはいかないのであーだこーだ言ってみたいと思います。

まずプレイ中にしみじみと感じたのが「この作品に最適な表現形態はほんとうにヴィジュアルノベルなのだろうか?」という疑問。むろん,アージュというクリエイター集団があって,エロゲを生業としていて,そして表現したいなにかがあったわけですから,これ以外の選択肢というのはありえなかったわけですが,それでもやっぱり「もしも」を考えずにはいられません。ループや平行世界といったフィーチャーがヴィジュアルノベルと非常に相性がいいのは「CROSS†CHANNEL」「ひぐらしのなく頃に」といった極端な例を出すまでもなく(残念ながらYU-NOは未プレイ)明らかとして,圧倒的なボリューム,延々続く主人公のモノローグといった要素もヴィジュアルノベル以外のメディアでは実現が非常に難しかったでしょう。特に後者なしではこの作品はたんに「よくできた物語」であったはずです。ただ,僕はそれでもよかった。たとえばこの作品が全5巻ぐらいの小説であったとしても,物語としての完成度が失われることはない,と確信します。

アニメとなるとある程度のテンポのよさが要求されますから,登場人物の台詞は半分以下に,モノローグにいたっては10分の1以下になってしまうでしょうけど,それでもまあ骨格がしっかりしていますからじゅうぶんに面白いものになると思います。なにより,本作品の演出のいちばんの残念ポイント,戦闘シーンが鼻血モノになる点が大きい。rUGPの機能は行くところまで行っているとは思うのですが,それでもやはり紙芝居的チャチさは最後まで拭いきれませんでした。このへん,PCの画面というメディアは手抜きがしにくいというか,アニメでも漫画でも動きさえしっかり描けていればディテールを上手に省略できるのですが,PC上の画ではそれなりのクオリティの1枚絵でないと手抜きにしか見えないというのがあるような気がします。たぶん。反例求む。

とはいえそういうことはディテールに過ぎないわけでして,いちばんの引っかかりはタケルという主人公のいびつさです。言い切ってしまいますが,よいエロゲの主人公の条件は,プレイヤーに半歩遅れてついてくることです。あるイベント(ふつうは特定のヒロインの魅力を演出するもの)があって,そこでプレイヤーの心が動かされて,あるいは/そしてその動きにあった選択肢が提供されて,その結果に基づいて主人公の心情もシンクロするというのがいちばん気持ちいい。反対に,主人公が先走って1人で盛り上がってしまったり,ちょう素敵なイベントをスルーしたりするとがっくりきます。おなじくアージュ作品の主人公である鳴海孝之はこのへんが絶妙というか最悪というか,プレイヤーの選択肢に一時は引きずられるもののすぐにループに戻ってしまってプレイヤーをやきもきさせた(あるいはプレイヤーに見放された)わけですが,タケルもまたプレイヤーの――といって悪ければ僕の――思い通りには動いてくれません。選択肢がほとんど出現しないというのも一因ではありますが,ひぐらしではこの手のストレスを感じることはなかったので,主な原因ということはないでしょう。

もうちょっと具体的な話をすると,戦争という特異なシチュエーションと,60時間という長大なプレイ時間,そして主人公という立場から期待される成長をタケルはほとんど果たしていないように思えたのです。リアリティという面ではたしかにたった2ヶ月で人間どこまで変われるのかという話もありますが,そういうものを物語に求める読者はかなり稀有なのではないかと。ただ,あちこちの論評を読んだかぎりでは,これはアージュの意図どおりというか,そもそもタケルはプレイヤーの傍観者としての立場を強調するための存在であったようです。そしてその姿勢は少なくとも君のぞ以来一貫したものだと。しかしそうすると,ヴィジュアルノベル(というかエロゲ)のもつインタラクティブ性を,それを裏切るというやりかたでしか生かしていないわけで,最初にそれをやったひとはえらいかもしれないけどそれを売りにしてしまうのは趣味がよろしくないなあ,と感じてしまいます。

次回はネタバレを交えたお話を。